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東京地方裁判所 平成12年(ワ)1485号・平12年(ワ)2718号・平9年(ワ)13886号 判決

原告(番号1) 白井邦松

<外三五名>

右原告番号1ないし29訴訟代理人弁護士 春日秀一郎

右訴訟復代理人弁護士 廣上精一

原告(番号30) 笠神博

右原告番号30訴訟代理人弁護士 大竹夏夫

被告 株式会社ヤトウ

右代表者代表取締役 矢田俊次

右訴訟代理人弁護士 藤井成俊

なお、以下、原告ら(番号1ないし10、12、13、15ないし30)を総称して「当初原告」と、参加原告大川正彦及び同大川なほみ(番号14)を「参加原告大川」と、参加原告疋田生次郎(番号11)を「参加原告疋田」と、当初原告、参加原告大川及び参加原告疋田を総称して「原告ら三〇名」と、原告ら三〇名のそれぞれを「各原告」という。

主文

一  原告ら三〇名(ただし、原告番号5、14、18、19、23、24、25及び30の各原告を除く。)がそれぞれ、別紙原告所有地一覧表記載の各土地のため、別紙物件目録記載の各土地のうち別紙主文一覧表の物件目録の土地番号欄に○印のある土地(以下「各認容承役地」という。)につき、通行地役権を有することを確認する。

二  被告は、別紙物件目録記載の各土地上に通行の妨害となる柵その他の工作物を設置するなどして、原告ら三〇名(ただし、原告番号5、14、18、19、23、24、25及び30の各原告を除く。)がそれぞれ、前項において通行地役権を有することを確認された各認容承役地を通行することを妨害してはならない。

三  被告は、原告ら三〇名(ただし、原告番号5、14、18、19、23、24、25及び30の各原告を除く。)がそれぞれ、上水道及び都市ガスを導入するため、第一項において通行地役権を有することを確認された各認容承役地の地中に導入管を設備することを妨害してはならない。

四  原告藤木弘(番号5)、参加原告大川(番号14)、原告染谷初(番号18)、原告高木英明(番号19)、原告松島孝治(番号23)、原告濱名洋介(番号24)、原告藤巻喜代子(番号25)及び原告笠神博(番号30)の各請求並びに原告ら三〇名(ただし、原告番号5、14、18、19、23、24、25及び30の各原告を除く。)のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用のうち、原告藤木弘(番号5)、参加原告大川(番号14)、原告染谷初(番号18)、原告高木英明(番号19)、原告松島孝治(番号23)、原告濱名洋介(番号24)、原告藤巻喜代子(番号25)及び原告笠神博(番号30)と被告との間に生じたものは右原告及び参加原告らの負担とし、原告ら三〇名(ただし、原告番号5、14、18、19、23、24、25及び30の各原告を除く。)と被告との間に生じたものはこれを三分し、その一を被告の、その余を原告ら三〇名(ただし、原告番号5、14、18、19、23、24、25及び30の各原告を除く。)の各負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  当初原告の請求(平成九年(ワ)第一三八八六号)

1  当初原告が、別紙物件目録記載の各土地につき、別紙原告所有地一覧表記載の各土地のために通行地役権を有することを確認する。

2  被告は、別紙物件目録記載の各土地に、通行の妨害となる柵その他の工作物を設置するなどして、当初原告の通行を妨害してはならない。

3  被告は、当初原告が上水道、都市ガスを導入するため、導入管を別紙物件目録記載の各土地の地中に設備することを妨害してはならない。

二  参加原告大川の請求(平成一二年(ワ)第一四八五号)

1  参加原告大川が、別紙物件目録記載の各土地につき、別紙原告所有地一覧表一四記載の土地のために通行地役権を有することを確認する。

2  被告は、別紙物件目録記載の各土地に、通行の妨害となる柵その他の工作物を設置するなどして、参加原告大川の通行を妨害してはならない。

3  被告は、参加原告大川が上水道、都市ガスを導入するため、導入管を別紙物件目録記載の各土地の地中に設備することを妨害してはならない。

三  参加原告疋田の請求(平成一二年(ワ)第二七一八号)

1  参加原告疋田が、別紙物件目録記載の各土地につき、別紙原告所有地一覧表一一記載の各土地のために通行地役権を有することを確認する。

2  被告は、別紙物件目録記載の各土地に、通行の妨害となる柵その他の工作物を設置するなどして、参加原告疋田の通行を妨害してはならない。

3  被告は、参加原告疋田が上水道、都市ガスを導入するため、導入管を別紙物件目録記載の各土地の地中に設備することを妨害してはならない。

第二事案の概要

一  前提となる事実等(証拠援用部分を除き、争いがない。)

1  原告ら三〇名は、別紙原告所有地一覧表記載のとおり、練馬区東大泉二丁目所在の各土地(以下「本件原告所有地」という。)の所有権又は持分権を有している。本件原告所有地のおおよその位置は、別紙土地所在図に示したとおりである。(青色実線で囲んだ部分は本件原告所有地の位置を、丸内の番号は各原告番号を示す。以下、本件原告所有地の一部を特定する場合には、別紙土地所在図に示した丸内の番号を付して「本件原告所有地<1>」などという。)。

本件原告所有地にはそれぞれ、各原告またはその家族が居住している。ただし、原告藤木(番号5)は、本件原告所有地<5>の北隣りに位置する練馬区東大泉二丁目一〇五〇番二三に居住しており、参加原告疋田(番号11)及び原告内田(番号26)は、練馬区東大泉二丁目内には居住していない。

本件原告所有地の周辺のおおよその現況は、別紙住宅所在図に示したとおりである。(青色で囲んだ部分は原告ら三〇名の居住位置を、丸内の番号は各原告番号を示す。なお、原告藤木(番号5)については、その所有地(本件原告所有地<5>)と居宅の位置が一致しないので、居住位置を示さない。)(甲一、三、四、二三)

2  被告は、不動産売買・仲介を業とする会社であるが、別紙物件目録記載の各土地(以下、これを総称する場合を「本件土地」といい、各別に特定する場合は、別紙物件目録記載の番号を付して「本件一の土地」などという。)を所有し、平成三年一一月六日、真正な登記名義の回復を原因として本件土地の所有権移転登記を得た。

本件土地のおおよその位置は、別紙土地所在図及び別紙住宅所在図に示したとおりである。(別紙土地所在図の赤色実線で囲んだ部分及び別紙住宅所在図の橙色で塗りつぶした部分が本件土地の位置を示す。)。

3  本件土地は、固定資産税の評価において、現状道路として非課税となっている。

また、本件土地には上水道については仮の導水管が埋設されており、都市ガスの本管は埋設されていない。

二  争点

1  原告の主張

(一) 黙示の地役権の設定

(1)  本件土地が分譲地内の道路として開設、分筆されてから今日までの経緯

<1> 本件土地及び原告ら所有地を含む一帯の土地は、昭和一〇年当時加藤源太郎及びその分家の当主であった酒井源蔵の所有地であった。

加藤源太郎は、右一帯の土地を宅地として造成して分譲することを計画し、酒井源蔵とともに、武蔵野鉄道株式会社やその関連の宅地開発業者と組んで、宅地の造成、道路の設置等の工事を行い、昭和一三年ころに各分譲地の分筆を行った上、昭和一三年から昭和一五年ころにかけて、各土地の分譲をした。

<2> 加藤源太郎及び酒井源蔵は、右各分筆とほぼ同じ時期である昭和一三年五月一二日に、分譲地内の道路用地にあたる本件土地やこれに隣接する練馬区東大泉二丁目一〇四七番四、同番六、同番一五、同所一〇四九番九の各土地等を分筆したが、右各道路用地の所有権は加藤源太郎及び酒井源蔵に帰属させたままとした。

<3> 右宅地造成の際には、分譲地と道路との間には、段差が設けられ、道路の境界は石で仕切られて土留がなされ、右道路は昭和一三年から今日に至るまで一貫して分譲地内の道路として利用されてきた。

<4> 練馬区東大泉二丁目一〇四七番四、同番六、同番一五、同所一〇四九番九の各土地は、加藤源太郎から昭和三〇年八月二日、相続を原因として、加藤秀雄及び加藤アキに所有権移転登記がなされ、昭和三一年一二月二四日付で「昭和一二年不詳第二種地成」を原因として土地台帳の地目が畑から道路に修正されており、現在の不動産登記簿上の地目も公衆道路となっている。

(2)  黙示の地役権の設定

<1> 右事実によれば、練馬区東大泉二丁目一〇四七番四、同番六、同番一五、同所一〇四九番九の各土地について、昭和三一年に「昭和一二年不詳第二種地成」を原因に地目を畑から道路に修正されていることから、右各土地に隣接し、同時期に分筆された本件土地についても、加藤源太郎及び酒井源蔵が、分筆内の道路として分筆されたものであることは明かであり、更に、本件土地を含む道路は、分譲地とは明確に区切られ、その後も一環として道路として利用されてきたこと、加藤源太郎及び酒井源蔵は、原告ら所有地を分譲することで、本件土地が道路として使用されること等の対価を得ていること等の事情からして、本件土地の所有者であった加藤源太郎及び酒井源蔵と各分譲地の取得者との間で、本件土地について黙示的に地役権が設定されたといえる(個々の地役権を設定した当事者及びその日付は、別紙地役権設定当事者一覧表の「A)地役権設定当事者と日付」欄に記載のとおりである。)。

このことは、本件土地が分譲地造成の際に分譲地内の道路として開設されたものであること、建築基準法四二条一項三号道路として認められていること、道路として固定資産税は非課税扱いとなっていること、原告らは五〇年以上の長期にわたって分譲地内の道路として通行使用してきたこと、この間加藤源太郎らからは何らの異議も出ていないこと等の諸事清からも裏づけられる。

<2> 原告らは、前記各分譲地の取得者から、順次売買、相続等によって各分譲地の所有権又は持分権を取得した。したがって、それに随伴して本件土地に設定された通行地役権を承継した(個々の地役権の承継過程は、別紙地役権設定当事者一覧表の「B)要役地所有権移転の経緯」欄に記載のとおりである。)。

<3> 被告は不動産売買、仲介等を業とする株式会社であるが、本件土地が道路として利用されていることを認識していながら、道路敷である本件土地のみを購入し、それ以外に道路に隣接する宅地は何ら所有していない。

被告は、不動産売買、仲介等を業務としている株式会社であるから、本件土地の現況が道路であることはもとより、固定資産税も非課税扱いとなっていることを容易に知り得たはずであり、また、被告は、道路敷である本件土地のみを購入していることから、これを原告らを初めとする周辺宅地所有者あるいは練馬区に高額で買取らせる意図をもって本件土地を購入したことは明らかであって、このような事情の下では、被告は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者とはいえない。

したがって、本件土地には通行地役権の設定登記はなされていないものの、原告らは、承継地である本件土地の所有権移転登記を経由した被告に通行地役権を対抗できる。

(二) 被告による通行妨害

(1)  被告は、平成三年一一月六日、真正な登記名義の回復を登記原因として所有権移転登記を受けると、平成六年末ころから原告らに対して金員の支払いを要求し始め、平成七年五月には権利譲渡の譲渡価格名下に、本件二の土地及び本件三の土地に面している原告に対しては一平方メートル当たり四万円の、本件一の土地及び本件四の土地に面している原告に対しては一平方メートル当たり五万円の支払いをするよう請求してきた。

(2)  のみならず、被告は、原告らが右金員の支払いに応じないならば、いわゆる同和団体を使って道路を封鎖する実力行使に出ることもあるなどの言辞を弄して、原告らを脅迫した。

(3)  そこで、原告らは(ただし、原告奥村隆幸及び同奥村裕子(番号29)並びに同中島成和(番号28)を除く。)、平成七年八月二一日、被告を債務者として東京地方裁判所に対し、通行妨害予防請求の仮処分を申し立て、同年一二月二二日、右申立てを認める仮処分決定を得た。

(三) 上水道本管及び都市ガスについて

(1)  原告ら所有地は、練馬区の西北部に位置し、最寄りの西武池袋線大泉学園駅から北東側に約一キロメートルのところにある、いわゆる都市型の住宅地である。

(2)  現代の都市生活には、上水道及び都市ガス導入施設が必要不可欠なものである。

しかし、原告ら所有地については、上水道及び都市ガスの本管が本件土地の西側にある都道に埋設されているにもかかわらず、被告の承諾が得られないため、右本管に通ずる本件土地を利用できないため、上水道についての仮の導入管が本件土地に埋設されているだけで、原告らは、かろうじてこの仮の導入管から給水を受けているに過ぎず、都市ガスについては何らの供給も受けられず、未だにプロパンガスに頼らざるを得ない不便な生活を強いられている。

(3)  本件土地は、住宅地の開発分譲の際、各分譲地である原告ら所有地に至る道路として開設されたものであることは前述のとおりである。

生活の維持向上に伴って上下水道、都市ガス、電気、電話等の諸設備が道路敷きの地中に埋設されることは、当然のことであるから、本件土地についての通行地役権の中には、このような文化生活の維持向上のために下水道法一一条、民法二一〇条ないし二一三条を類推して、上水道、都市ガスの導入設備設置の権限まで含まれるものである。

(四) よって、原告ら三〇名は、被告に対し、本件土地について、通行地役権の確認を求めるともに、上水道及び都市ガスの供給を受けるために、請求の趣旨記載の請求に及ぶ。

2  被告の主張

(一) 黙示の地役権の設定契約について

(1)  仮に、分筆の形状が道路のようであり、近隣の住民が通行しているからといっても、本件土地に通行地役権が設定されていたと推認できるものではない。通行地役権は、物権であり、それの取得には時効取得の場合を除けば、要役地所有者と承役地所有者間で通行地役権設定契約が明示的に締結される必要がある。

したがって、契約当事者は特定されていなければならないし、右権利は、要役地所有者である原告らにとって所有権に付随する極めて重要な権利なのであるから、仮にその設定があったならばそれを明らかにするような書面があってしかるべきである。原告白井邦松が当審で証言しているように、過去に承役地所有者から幾度となく通行地役権がないことを言われていたということは、通行地役権設定契約の締結がそもそもなかったことの証左である。

(2)  加えて、原告白井が述べたように、被告の前々所有者である榎本眞平は、原告らに通行地役権がないことを裏づける左記のような行動をしている。

<1> 榎本眞平の代理人と称する清水某が、原告白井の学生のころ、同人宅にやってきて、「本件土地は榎本個人の道路だ。通行するなら買え。」と言った。清水某には原告白井の母親が対応した。清水某は、原告白井宅だけではなく、近隣の商店にも同様なことを言って、その店先に杭を打ち、店への出入りをさせないようにしたため、店の人はそれを怒って清水某を殴った。結局、その店の人はお金を払って杭を撤去してもらった。

<2> 昭和四〇年ころ、吉田弁護士の名刺を示して、若い二人が原告白井宅を訪れた。その者たちは榎本の代理人といっていた。同人らは、本件土地を榎本が昭和一七年に買ったといい、原告白井に近接地の宅地並の価格で買い取るよう求めたが、原告白井は、「道路であることを知って買ったのであろう。そんな価格では買えない。」と断った。

その後、吉田弁護士と思われる人から電話があったので、「昭和一七年に買ったときの値段でなら買う」旨答えたところ、それきり電話は来なかった。

仮に、原告らが本件土地に通行地役権を持っているならば、被告以前の所有者が通行したいならば買取るように要求することはないはずである。そのような要求があったということは、原告らが本件土地に通行地役権を有していないことの証拠である。

(3)  原告らは、本件土地に地役権が設定されていないことを承知していたのであり、そのことは、原告らが左記のような行為をしていることから明らかである。

<1> 榎本眞平が上水道を施設する承諾をしてくれないので、練馬区では水道管を引いてくれず、練馬区にいる業者は、誰も地主の承諾がないとできないといって、導管埋設工事をしてくれなかった。仕方なく、榎本には黙って、同人が気づいても差止請求ができないように、週末、杉並区の業者に頼み、突貫工事で導管埋設工事をしてもらった。側溝も榎本に黙って原告らが自分で作った。

<2> 一部の舗装は練馬区でやってもらったが、その際は、練馬区で地主の承諾書は地主の実印でなくてもよいことを教えてもらったので、「榎本」という三文判を買ってきて、同人名義の承諾書を作り、練馬区に申請してやってもらった。

仮に、原告らが本件土地に通行地役権を持っているならば、原告の一人が本件土地所有者の作成書面を偽造して練馬区に舗装させたりはしないはずである。そのような行動をしたということは、原告らが本件土地に通行地役権を有していないことを承知していたからに他ならない。

(4)  原告らと被告とは、本件土地に地役権設定契約を締結することを前提に交渉をしてきた。

その交渉過程で、原告らは、「社長様の申し出は、我々一同と致しましても、十分理解できるところでございますが、一個人の負担額と致しましては、何分とも高価であり・・・」と述べていることからもわかるように、本件土地に地役権が設定されていないことを百も承知していたのである。そうであるからこそ、右のような言葉が出るのであり、「毎日の如く会合を持ち協議」をしたり、練馬区に対する調査をした結果、「我々住民側と致しまして、社長様との交渉は交渉とし、区側にかかる事態に対し、仮に何らかの責任があるならば、その責任を果たすよう、強行に要求すべくその運動を展開(請願等)して参る心算でございますと述べたのである。即ち、原告らは、本件土地に地役権の設定がなされていないから、新たに被告との間で地役権設定契約を締結し、その後、区側に「何らかの責任」があるようならば、地権者として強硬な運動をしていくことを表明したのである。

(5)  本件土地は、建築基準法上の私道と思慮されるが、同法により右道路では建築が制限され、私道の廃止・変更も制限されている。その結果、一般公衆は、その私道を通行することができることになるが、これは同法による規制の反射的利益に過ぎず、右規制により私法上の通行権を取得するわけではない。あくまでも本件土地の管理権は所有者である被告が有しているのであり、公法上の規制に反しない限り、下水道・ガス・上水道の埋設を認めない等本件土地の使用制限はできるというべきである。

(二) 原告ら主張の地役権は対抗力がない。

仮に通行権が認められるとしても、通行地役権は不動産に関する物権変動であり、登記可能な権利であるから、これを承役地の第三取得者である被告に対抗するためには、原則として登記を備えることが必要である。

しかし、原告ら主張の地役権は、その登記を備えていない。

したがって、原告らは、通行地役権を被告に対抗できない。

(三) 被告は背信的悪意者にはあたらない。

被告は、本件土地に通行地役権が存在することを知らずに本件土地を取得した。また、原告らが地役権の登記を経ていないことを奇貨として、原告らに高値で売りつけて利益を得る目的で本件土地を買い受けたものでもない。むしろ、被告は、本件土地の買取を希望する人には、練馬区が容認する極めて廉価な金額で売り渡している。

したがって、被告は、背信的悪意者ではない。

第三当裁判所の判断

一  黙示の地役権設定契約が認められるかどうか

1  前記前提となる事実等に証拠(甲一の一ないし四四、二の一ないし四、六の一ないし四、七、八、一二ないし一四、二三の一ないし二九、原告白井邦松)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 酒井源蔵は、昭和一〇年当時、本件原告所有地<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<6>、<7>、<8>、<9>、<11>、<12>、<13>、<15>、<16>、<20>、<21>、<22>のうちの一〇四一番一〇、<26>、<27>、<28>、<29>、本件一の土地、本件二の土地及び本件四の土地を含む分筆前の東京都練馬区東大泉二丁目一〇五一番一、一〇五一番二、一〇五一番四、一〇五〇番、一〇四一番一、一〇四一番四、一〇四一番一〇、一〇四一番一二、一〇四一番一五及び一〇四一番一九の土地をいずれも所有していた。

また、加藤源太郎は、本件原告所有地<10>、<17>、<22>のうちの一〇四九番六及び本件三の土地を含む分筆前の東京都練馬区東大泉二丁目一〇四九番六、一〇四九番一四、一〇四七番一四及び一〇四七番一九の土地をいずれも所有していた。

(二) 酒井源蔵及び加藤源太郎は、東京都練馬区東大泉二丁目一〇五一番一、一〇五一番二、一〇五〇番、一〇四一番一、一〇四一番一〇、一〇四一番一二、一〇四一番一五、一〇四九番六、一〇四九番一四及び一〇四七番一九の各土地を宅地として造成して分譲することを計画し、武蔵野鉄道株式会社及び宅地開発業者と組んで、宅地の造成、道路の設置等の工事を行い、昭和一三年五月ころ、分譲地の分筆を行った上、昭和一三年から昭和一五年ころにかけて、各土地の分譲を行った。その分譲地の一部が本件原告所有地<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<6>、<7>、<8>、<9>、<10>、<11>、<12>、<13>、<15>、<16>、<17>、<20>、<21>、<22>のうちの一〇四一番一〇及び一〇四九番六、<26>、<27>、<28>、<29>である。

酒井源蔵と加藤源太郎とは親戚関係にあり、両名は右造成及び分譲の事業を共同して行っていた。

(三) その際、一〇四一番四(本件一の土地)、一〇四一番一九(本件二の土地)、一〇四七番一四(本件三の土地)及び一〇五一番四(本件四の土地)は、いずれも幅員約五メートルの通路として造成された。その際、各分譲地と本件土地との間には段差が設けられ、本件土地との境界は石で仕切られて土留がなされた。本件土地の通路としての位置及び幅員は、右造成当時から今日までほとんど変わっていない。

(四) 本件土地と本件原告所有地<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<6>、<7>、<8>、<9>、<10>、<11>、<12>、<13>、<15>、<16>、<17>、<20>、<21>、<22>のうちの一〇四一番一〇及び一〇四九番六、<26>、<27>、<28>、<29>との位置関係は、別紙土地所在図のとおりである。

(五) 本件四の土地は、本件原告所有地<1>、<2>、<3>、<4>、<6>、<7>、<8>、<9>、<10>、<11>、<28>、<29>の各土地に接し、これらの土地の中央をほぼ北東方向から南西方向に貫いている。そして、本件四の土地は、その南西側及び南東側で同じく通路として造成された東京都練馬区東大泉二丁目一〇四九番九及び一〇五〇番九の各土地に接しており、これらの通路を経由して南西側及び南東側の公道と通じている。本件四の土地は、その位置関係から、主として本件原告所有地<1>、<2>、<3>、<4>、<6>、<7>、<8>、<9>、<10>、<11>、<28>、<29>の各土地のための通路として継続的に利用されてきた。

他方、本件原告所有地<5>は、本件四の土地に接しておらず、一〇五〇番九の土地を介して直接南東側の公道に通じている。

(六) 本件一の土地は、本件原告所有地<22>のうちの一〇四一番一〇、<26>及び<27>の各土地に接し、これらの土地の中央をほぼ北東方向から南西方向に貫いている。そして、本件一の土地は、その南東側で同じく通路として造成された東京都練馬区東大泉二丁目一〇四一番四三及び一〇四九番九の各土地に、南西側で公道と接している。本件一の土地は、その位置関係から、主として本件原告所有地<22>、<26>及び<27>の各土地のための通路として継続的に利用されてきた。

(七) 本件二の土地及び本件三の土地は、本件原告所有地<12>、<13>、<15>、<16>、<17>、<20>及び<21>の各土地に近接している。そして、本件二の土地及び本件三の土地は、その南西側で同じく通路として造成された東京都練馬区東大泉二丁目一〇四七番六、一〇四七番一五、一〇四七番四等の各土地と接し、これらの土地を経由して公道に通じている。本件二の土地及び本件三の土地は、その位置関係から、主として本件原告所有地<12>、<13>、<15>、<16>、<17>、<20>及び<21>の各土地のための通路として継続的に利用されてきた。

(八) 酒井源蔵が、本件原告所有地<1>、<2>、<3>、<4>、<6>、<7>、<8>、<9>、<11>、<12>、<13>、<15>、<16>、<20>、<21>、<22>のうちの一〇四一番一〇、<26>、<27>、<28>、<29>の各土地を売却した相手方、売却日時は、別紙地役権設定当事者一覧表のNo.1ないし4、6ないし9、11、12、13、15、16、20、21、22、26ないし29の「A)地役権設定当事者と日付」欄に記載のとおりである。その後、右の本件原告所有地の所有権は、別紙地役権設定当事者一覧表のNo.1ないし4、6ないし9、11、12、13、15、16、20、21、22、26ないし29「B)要役地所有権移転の経緯」欄に記載のとおりの過程を経て承継された。

また、加藤源太郎が、本件原告所有地<10>、<17>、<22>のうちの一〇四九番六の土地を売却した相手方、売却日時は、別紙地役権設定当事者一覧表のNo.10、17、22の「A)地役権設定当事者と日付」欄に記載のとおりである。その後、本件原告所有地<10>、<17>、<22>のうちの一〇四九番六の土地の所有権は、別紙地役権設定当事者一覧表のNo.10、17、22の「B)要役地所有権移転の経緯」欄に記載のとおりの過程を経て承継された。

他方、酒井源蔵及び加藤源太郎は、右の本件原告所有地を売却後もしばらくの間本件土地の所有権を自分に帰属させたままとしていたが、昭和一七年一〇月二二日、本件土地を、榎本眞平に売却譲渡し、同月二七日、その旨の所有権移転登記をした。

(九) 本件土地に隣接する通路用地である東京都練馬区東大泉二丁目一〇四九番九、一〇四七番六、一〇四七番一五、一〇四七番四の土地は、昭和三〇年八月二日、相続を原因として加藤源太郎から加藤秀雄及び加藤アキに所有権移転登記がなされ、昭和三一年一二月二四日付で「昭和一二年不詳第二種地成」を原因として土地台帳上の地目が畑から道路に修正されており、現在の不動産登記簿上の地目も公衆用道路となっている。

(一〇) 本件原告所有地<14>、<18>、<19>、<23>、<24>、<25>、<30>については、酒井源蔵及び加藤源太郎が本件土地を所有していた昭和一七年一〇月二二日までに、右両名から右の本件原告所有地の売却を受けた人物が存在する事実を認めるに足りる証拠がない。

2(一)  前記1の(一)に認定した事実によれば、左記の事実を推認することができる。

(1)  酒井源蔵は、本件原告所有地<1>、<2>、<3>、<4>、<6>、<7>、<8>、<9>、<11>、<28>、<29>の各土地を売却した際、別紙地役権設定当事者一覧表のNo.1ないし4、6ないし9、11、28及び29の「A)地役権設定当事者と日付」欄に記載の各買主との間で、本件四の土地に、要役地を本件原告所有地<1>、<2>、<3>、<4>、<6>、<7>、<8>、<9>、<11>、<28>、<29>とする無償かつ無期限の通行地役権を設定することを黙示的に合意した。

また、酒井源蔵の代理人である加藤源太郎は、本件原告所有地<10>の土地を売却した際、別紙地役権設定当事者一覧表のNo.10の「A)地役権設定当事者と日付」欄に記載の各買主との間で、本件四の土地に、要役地を本件原告所有地<10>とする無償かつ無期限の通行地役権を設定することを黙示的に合意した。

そして、本件原告所有地<1>、<2>、<3>、<4>、<6>、<7>、<8>、<9>、<10>、<11>、<28>、<29>の各土地のための右通行地役権は、右各設定者から前記1の(八)に認定した各承継者を通じて各原告ら(番号1ないし4、6ないし11、28、29)に黙示の合意により承継されてきた。

(2)  酒井源蔵は、本件原告所有地<22>のうちの一〇四一番一〇、<26>及び<27>の各土地を売却した際、別紙地役権設定当事者一覧表のNo.22うちの1041番10、26及び27の「A)地役権設定当事者と日付」欄に記載の各買主との間で、本件一の土地に、要役地を本件原告所有地<22>のうちの一〇四一番一〇、<26>及び<27>とする無償かつ無期限の通行地役権を設定することを黙示的に合意した。

また、酒井源蔵の代理人である加藤源太郎は、本件原告所有地<22>のうちの一〇四九番六の土地を売却した際、別紙地役権設定当事者一覧表のNo.22のうちの1049番6の「A)地役権設定当事者と日付」欄に記載の買主との間で、本件一の土地に、要役地を本件原告所有地<22>のうちの一〇四九番六とする無償かつ無期限の通行地役権を設定することを黙示的に合意した。

そして、本件原告所有地<22>のうちの一〇四一番一〇及び一〇四九番六、<26>並びに<27>の各土地のための右通行地役権は、右各設定者から前記1の(八)に認定した各承継者を通じて各原告ら(番号22、26、27)に黙示の合意により承継されてきた。

(3)  酒井源蔵は、本人兼加藤源太郎の代理人として、本件原告所有地<12>、<13>、<15>、<16>、<20>及び<21>の各土地を売却した際、別紙地役権設定当事者一覧表のNo.12、13、15、16、20及び21の「A)地役権設定当事者と日付」欄に記載の各買主との間で、本件二の土地及び本件三の土地に、要役地を本件原告所有地<12>、<13>、<15>、<16>、<20>及び<21>とする無償かつ無期限の通行地役権を設定することを黙示的に合意した。

また、加藤源太郎は、本人兼酒井源蔵の代理人として、本件原告所有地<17>の土地を売却した際、別紙地役権設定当事者一覧表のNo.17の「A)地役権設定当事者と日付」欄に記載の買主との間で、本件二の土地及び本件三の土地に、要役地を本件原告所有地<17>とする無償かつ無期限の通行地役権を設定することを黙示的に合意した。

そして、本件原告所有地<12>、<13>、<15>、<16>、<17>、<20>及び<21>の各土地のための右通行地役権は、右各設定者から前記1の(八)に認定した各承継者を通じて各原告ら(番号12、13、15、16、17、20、21)に黙示の合意により承継されてきた。

(4)  酒井源蔵及び加藤源太郎が、昭和一七年一〇月二二日、本件土地を榎本眞平に売却譲渡した際、酒井源蔵及び加藤源太郎と榎本眞平は、榎本眞平が酒井源蔵及び加藤源太郎から右(1) ないし(3) の通行地役権の設定者の地位を承継することを合意した。

(二)  酒井源蔵及び加藤源太郎は、本件原告所有地を分譲することによって本件土地が通路として使用されることに対する代償を得ていると推認される(通路の完備した分譲地であれば分譲価格も高く設定できる。)のであるから、右のような黙示の通行地役権の設定合意の推認には合理性があるというべきである。

(三)  なお、被告は、本件土地の元の所有者である榎本眞平の代理人が、原告らに本件土地を通行したいならば買い取るよう要求したこと、原告らが、榎本眞平に無断で上水道導管埋設工事を工事業者に依頼したり、榎本眞平の承諾書を偽造して練馬区に本件土地を舗装させたりしたこと、また、本件土地の買取をめぐる被告との交渉過程での原告らの言動を根拠として、原告らは、本件土地に地役権が設定されていないことを承知していたと主張する。

確かに証拠によれば、前記被告の主張(一)の(2) ないし(4) に記載の事実が認められる。しかし、前記認定の通行地役権がいずれも本件土地に登記されていないことは後記のとおりであるところ、榎本眞平の代理人及び原告らが右のような言動をしたのは、同人らが登記のない通行地役権は本件土地の第三取得者に対して、対抗することができないと認識していたからであると考えられる。したがって、右事実の存在をもって、地役権設定の黙示の合意の認定が妨げられるものではないというべきである。

(四)  しかし、原告主張の通行地役権のうち、左記の各地役権についてはこれを認めることは困難である。

(1)  本件原告所有地<5>については、前記認定の本件土地との位置関係及び本件原告所有地<5>は東京都練馬区東大泉二丁目一〇五〇番九の土地を介して直接南東側の公道に通じており、本件土地を通行する必要性に乏しいことに照らし、本件土地を承役地とする通行地役権が設定された事実を認めることは困難である。

(2)  本件原告所有地<22>のうちの一〇四一番四二については、酒井源蔵又は加藤源太郎が右土地を所有していた事実が認められないこと、本件原告所有地<14>、<18>、<19>、<23>、<24>、<25>、<30>については、酒井源蔵及び加藤源太郎が本件土地を所有していた昭和一七年一〇月二二日までに、右両名から右の本件原告所有地の売却を受けた人物が存在する事実を認めがたく、いずれも黙示の地役権設定契約を認めるための前提を欠くといわざるを得ない。

(3)  本件原告所有地<1>、<2>、<3>、<4>、<6>、<7>、<8>、<9>、<10>、<11>、<28>、<29>の各土地については、本件一ないし三の土地と右の本件原告所有地との位置関係及び右の本件原告所有地は本件四の土地を通じて公道に出ることが可能であり且つそれが公道に出るための最短ルートであることから、本件一ないし三の土地を通行する必要性に乏しいと認められることに照らし、右の本件原告所有地のために本件一ないし三の土地を承役地とする通行地役権が設定された事実を認めることは困難である。

(4)  本件原告所有地<22>のうちの一〇四一番一〇及び一〇四九番六、<26>並びに<27>各土地については、本件二ないし四の土地と右の本件原告所有地との位置関係及び右の本件原告所有地は本件一の土地を通じて公道に出ることが可能であり且つそれが公道に出るための最短ルートであることから、本件二ないし四の土地を通行する必要性に乏しいと認められることに照らし、右の本件原告所有地のために本件二ないし四の土地を承役地とする通行地役権が設定された事実を認めることは困難である。

(5)  本件原告所有地<12>、<13>、<15>、<16>、<17>、<20>及び<21>の各土地については、本件一及び四の土地と右の本件原告所有地との位置関係及び右の本件原告所有地は本件二又は三の土地を通じて公道に出ることが可能であり且つそれが公道に出るための最短ルートであることから、本件一及び四の土地を通行する必要性に乏しいと認められることに照らし、右の本件原告所有地のために本件一及び四の土地を承役地とする通行地役権が設定された事実を認めることは困難である。

二  地役権の対抗力について

1(一)  登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない者は、民法一七七条にいう「第三者」(登記をしなければ物権の得喪又は変更を対抗することのできない第三者)に当たるものではなく、当該第三者に、不動産登記法四条又は五条に規定する事由のある場合のほか、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事由がある場合には、当該第三者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないというべきである。

(二)  そして、通行地役権の承役地が譲渡された時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲渡人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、要役地の所有者が承役地について通行地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができ、また、要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無、内容を容易に調査することができる。したがって、右の譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らないで承役地を譲り受けた場合であっても、何らかの通行権の負担のあるものとしてこれを譲り受けたものというべきであって、右の譲受人が地役権者に対して地役権設定登記の欠缺を主張することは、原則として信義に反するものというべきである。

したがって、右の譲受人は、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないものというべきである。なお、このように解するのは、右の譲受人がいわゆる背信的悪意者であることを理由とするものではないから、右の譲受人が承役地を譲り受けた時に地役権の設定されていることを知っていたことを要するものではないと解される。(最高裁第二小法廷平成一〇年二月一三日判決・民集五二巻一号六五)

2  そこで、本件についてこれを見るに、前記前提となる事実等及び前記一の1において認定した事実に証拠(甲二の一ないし四、六の一ないし四、一一ないし一四、乙一二、原告白井邦松、被告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 本件一の土地、本件二の土地及び本件四の土地はいずれも、平成二年三月一五日付で榎本眞平から株式会社青萬に、平成三年一一月二六日付で被告にそれぞれ所有権移転登記がなされている。本件三の土地は、平成二年一月二四日付で榎本眞平から株式会社真裕に、平成二年二月二三日付で株式会社真裕から株式会社青萬に、平成三年六月二五日付で被告にそれぞれ所有権移転登記がなされている。

しかし、本件土地の右各承継にあたって、前記一の2において認定した通行地役権(以下「本件認定地役権」という。)を承継する旨の合意がなされたとは認められない。また、本件土地にはいずれも本件認定地役権の登記はなされていない。

(二) 本件土地は、造成当時から幅員約五メートルの通路として各分譲地と截然と区分されており、本件土地の通路としての位置及び幅員は、右造成当時から今日までほとんど変わっていない。

また、昭和四四年ころには本件土地の両端に側溝が埋設されたほか、昭和五六年ころには舗装工事も行われている。

(三) 被告は水処理業及び不動産業を営業とする株式会社であるが、平成二年ころ、株式会社青萬から、本件土地を練馬区に売却する目的で榎本眞平から購入したいので購入資金七億円を融資して欲しいと頼まれ、被告の関連会社の名義でその融資を実行した。練馬区への売却予定額は約二〇億円とのことであり、売却後利益は青萬と被告とで折半するという約束であった。

被告代表者は、融資実行前に本件土地を実際に見分し、本件土地が道路として利用されていることは十分に知っていた。しかし、その際、本件土地の付近住民に対して本件土地の通行権の有無について確認することはしなかった。

しかし、練馬区と青萬との間の本件土地の買い上げ交渉は一向に進展しなかったことから、被告側の債権を保全する目的で本件土地の名義を被告名義とし、青萬に対して融資金額の返済を求めた。しかし、そのうち青萬の関係者は行方不明となり、融資回収の道を絶たれたことから、原告らに対して本件土地の買い上げを求めるようになった。

3  右認定事実によれば、本件土地には本件土地を承役地とする本件認定地役権が設定されていたものであるところ、被告が本件土地を譲り受けた時に、本件土地が前記認定の要役地所有者によって継続的に通路として使用されていたことは本件土地の位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、且つ、被告はそのことを認識していたものということができる。そして、本件においては特段の事情があることはうかがわれないから、被告は、本件認定地役権について、これが設定されていることを知らなかったとしても、地役権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないものと解すべきである。

したがって、前記認定の要役地所有者は、本件認定地役権を被告に対して主張することができるというべきである。

三  被告による通行妨害の可能性

1  前記二の2において認定した事実に証拠(甲九、一五の一ないし一一、一六、一二ないし一四、二五、乙一二、原告白井邦松、被告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 被告は、青萬からの融資金の回収見込みがなくなると、直接練馬区に対して本件土地の買い上げを交渉したが、これを拒否された。

そこで、被告は、平成六年末ころから、原告らに対し、本件土地の周辺住民からも練馬区に対して本件土地の買い上げを求める陳情を積極的にやって欲しい旨依頼するとともに、住民自身による本件土地の買い上げを要求し始め、平成七年五月には地役権設定の対価として、本件二の土地及び本件三の土地に面している原告に対しては一平方メートル当たり四万円の、本件一の土地及び本件四の土地に面している原告に対しては一平方メートル当たり五万円の支払いをするよう請求した。この請求において被告は、請求に応じない場合には第三者機関により法的に対処する旨を付言している。

(二) 被告は、平成七年一月ころ、原告ら地元住民に対する説明会において、被告の原告らに対する買い上げ希望を告げるとともに、その際、本件土地については同和団体関係者も購入したい旨の希望を伝えてきている旨の話をした。

(三) また、本件土地周辺の住民が建物の増改築工事を行う際、本件土地使用及び掘削についての被告の同意を取り付けなかったことから、被告から厳重な抗議を受けた。被告はその際、原告らに対し、被告の同意なく工事を続行する場合には、工事の差止め、間口の封鎖等の措置をとる旨告げた。

2  以上の認定事実及び被告が本件土地に対する地役権の存在を強く否定していることを併せ考えると、被告が本件認定地役権の行使を妨害するおそれが認められる。

したがって、その妨害の禁止を求める請求は、本件認定地役権の存在が認められる限度において理由がある。

四  上水道本管及び都市ガスの配管設備妨害禁止について

1  本件認定地役権は、前記認定のとおり、昭和一三年ないし昭和一五年当時黙示の合意によって設定された通行を目的とした地役権であるから、設定当時の合意内容としては、上水道本管及び都市ガスの配管設備を承役地である本件土地の地中に埋設することまでは予定していなかったものと解される。

しかし、今日においては、都市ガス及び上水道は都市生活において必要不可欠のものである。したがって、本件認定地役権の内容は、前記認定のような本件土地の造成経過に照らしても、今日の社会経済情勢を適確に反映した合理的な内容のものと理解することが許されるというべきである。

そして、相隣関係を規律する隣地使用権に関する民法二〇九条、囲繞地通行権に関する民法二一〇条、余水排泄権に関する民法二二〇条、他人の土地に排水設備を設置できる下水道法一一条等の趣旨を類推し、また都市ガス及び上水道の高度の必要性を考慮すれば、本件認定地役権は、その存在が肯定された限度内において、本件土地を通して都市ガス及び上水道の配管を各要役地に導入することを許容する内容のものと解するのが相当である。

そして、その場合、右法規に準じ、配管の場所及び方法は、本件認定地役権を有する者のために必要にして、かつ、承役地のため損害の最も少ないものを選択することが合意内容となっているものと解すべきである。

2  これを、本件で見ると、本件土地には上水道については仮の導水管が埋設されているだけで正規の導水管が埋設されていないこと、都市ガスの本管も埋設されておらず、原告らはプロパンガスを使用していること(前提となる事実等、原告白井邦松)から、原告らは、将来にわたって本件土地に上水道及び都市ガスの配管設備を埋設する工事を実施したいという希望を持っているが、現在既にその具体的な計画をたてているわけではないこと(原告白井邦松、弁論の全趣旨)が認められる。したがって、その埋設範囲を具体的に特定することはできない。

なお被告が本件土地に対する地役権の存在自体を強く争つていることは前記のとおりであるから、被告が上水道本管及び都市ガスの配管設備工事の実施を妨害するおそれは認められる。

他方、本件土地に前記認定要役地所有者のために配管を認めても、もともと本件土地は前記のとおり、被告が所有権を取得する以前から人又は車両の通路として利用されていた土地であり、また、原告のために本件土地全体に配管権を認めても、配管は必要のある範囲で定型的な埋設工事が行われるのであり、必要以上に広範囲に埋設されることも考えにくく、したがって、被告の権利を妨害することもないと考えられる。

3  以上の事情を考慮の上、本件土地全体について、本件認定地役権の存在が認められる限度における一般的な妨害禁止命令の限度で原告らの上水道本管及び都市ガスの配管設備妨害禁止請求を認容するのが相当である。

五  以上のとおり、原告ら三〇名(ただし、原告番号5、14、18、19、23、24、25及び30の各原告を除く。)の本訴請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、原告藤木弘(番号5)、参加原告大川正彦(番号14)、参加原告大川なほみ(番号14)、原告染谷初(番号18)、原告高木英明(番号19)、原告松島孝治(番号23)、原告濱名洋介(番号24)、原告藤巻喜代子(番号25)及び原告笠神博(番号30)の各請求並びに原告ら三〇名(ただし、原告番号5、14、18、19、23、24、25及び30の各原告を除く。)のその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 潮見直之)

別紙<省略>

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